第4章 配線と養生、APの設置

4.1 ケーブルの養生

野戦的な環境でのケーブリングが求められるイベント無線LANでは、敷設する配線に対して簡易かつ必要十分な養生を行うことが求められます。ケーブル養生は人の動線のすぐ側にケーブルを通さねばならない場合に、見栄えを保ちつつケーブル損傷によるサービス中断を防ぎ、そして何よりも重要なこととして歩行者が引っ掛けてしまいケガをしてしまうという最悪の事態を防ぐためにも必要です。しかしあまりにもしっかり養生しすぎると今度は敷設・撤去に時間がかかるといったことになりかねません。どこまでの養生が求められるかはイベントの性質や周囲の状況に依ります。ここではその判断の参考としてケーブルの各種養生の例を紹介します。

無養生
固定せず敷設したままで置いておく手法です。裏通路など見栄えを気にしなくて良い場所にて採ります。床にも壁にも養生テープの貼り付けが禁止されている場合にやむを得ずこれを採用する場合もあります。敷設も撤収も時間がかかりませんが固定が一切なされないため、ケーブルのクセにより見栄えが整えづらいという欠点があります。
点養生
敷設したケーブルを小さくちぎった養生テープを用いて数m間隔で固定する手法です。人の動線の脇や壁際などを通したい場合に用います。後述の線養生ほどテープを消費しないため、敷設も撤去も手早くできると言う利点があります。またケーブルのクセを直しつつ張るといったことも可能なため見栄えが整えやすいです。一方で養生テープの粘着力次第では剥がれやすく、定期的なメンテナンスが必要となる場合があります。また会場・施設によっては、こういったテープ類での貼り付けが禁止されており利用できない場合があります。特に床はOKでも壁はNGといった施設もあるため固定先には注意が必要です。
線養生 (図4.1)
敷設したケーブルを覆うように一定距離を養生テープで固定する手法です。人の動線を横切るような配線を固定する場合に用います。床材・壁材としっかり固定することで点養生よりも引っ掛けづらいようにします。一方であまりに踏まれると、材質・テープの質によっては剥がれる場合があり、これまた定期的なメンテナンスが必要です。またケーブルに沿ってある程度の距離を養生テープで固定するテクニックが必要です。ガフガンなどの治具を使うことで敷設は省力化することができます(個人的には値段がそこそこする割に扱いが大変なので、5m以内程度であれば手での養生が手早いかと思います。中長距離だと便利かもしれません)。比較的しっかり固定してしまうため、剥がす際に床材等を損壊してしまう危険性があります。撤去時には慎重に剥がし作業が必要です。またテープの質そして経過時間によってはケーブルにべったりと糊が残ってしまいべたつく場合があり、ケーブルの再利用性が下がるという欠点もあります。
虎柄テープによる線養生の例

図4.1: 虎柄テープによる線養生の例

カーペット養生 (図4.2)
カーペット材を用いて養生する手法です。電気工事などでよく用いられます。カーペット材を任意の形に切り抜いて配線に従って養生テープで留めます。養生の仕方に柔軟性があり必要分のカーペット材だけを持ち込めばよいためロールで持ち込んでその場で用意といったことが可能です。カーペット材は一般的に再利用しないためゴミの量が多くなるといった欠点があります。
マット養生およびカーペット養生の例

図4.2: マット養生およびカーペット養生の例

コードキャッチ養生 [30]
面ファスナー状になっておりカーペット等にくっつくタイプのケーブルプロテクタを利用する手法です。CONBUでも使われています[31]。床材が起毛素材であることを前提に、養生テープなしでケーブルをしっかり固定することが可能なため、人の動線を横切る形でも使えるという利点があります。またカーペット養生同様に本体はただの布なので切って加工しやすく、長さ調節を行ってフィットさせやすいという特徴もあります。カーペットでない場所でも養生テープで固定することによりマットやゴムマットの代わりに使うといったことも可能です。
ゴムマット養生 (図4.2)
ゴムシート[32]やゴムロール[33]を用いた養生です。面でケーブルの上にかぶせるため養生テープで固定しなくても重量次第で固定が容易という利点があります。一方で特にゴムロールではまくれ上がりやシート自体のクセの影響で、養生テープによる固定が必要な場合があります。1枚あたりのお値段はお安いですが、重量がかなりあるため運搬は大変という欠点があります。一部の会場施設では、ゴムシートの在庫を多数持っていることがあり、持ち込むことなくレンタルで利用できる場合があります。
ケーブルプロテクタ養生 [29] (図4.3)
ゴム製のケーブルプロテクタを敷設する手法です。ここでは軟性ケーブルプロテクタを想定しています。プロテクタ中央の溝にケーブルを埋めることで、プロテクタ自身の重量や摩擦により養生テープなしに一定レベルの固定ができます。屋外で車も通るような場所にてUTPケーブルを防護する目的でも利用可能です(車道に通すには占有許可が必要なので注意)。一方であくまで線長分のゴムの重量しかないため、完全な固定にはならず引っ掛けてこけるといった事態を防止するのには向きません。このためにはさらに養生テープでの固定が必要です。コンパクトにまとまりますが運搬に当たってはそれなりの重さになります。オフィス用品としてはモールなどもありますが、折り曲げられないものは可搬性が低いためオススメしません。より強度の高いプロテクタとしてケーブルガードといったトラックの重量にも耐えられる工事現場で用いられているような製品もありますが屋内向けにはオーバースペックなためよっぽどの場合でないかぎり出番はないでしょう。
ケーブルプロテクタ養生

図4.3: ケーブルプロテクタ養生

床にケーブルを這わせる場合にはこういった養生から適切なものを選んでいくことになります。一方で三次元的に配線を行わなければならない場合もあります。そういった場合には上記に挙げた手法以外にも環境を活かした配線・養生が必要になります。現地の状況をつぶさに見、フロアスタンドから施設の欄干、せり出し部、S字フックやマグネットフック、床板や造作の隙間などなど使えるものは使っていきましょう。

マグネットフック: 金属の壁にはこういった部材も有効

図4.4: マグネットフック: 金属の壁にはこういった部材も有効

4.2 AP設置

APの設置方法にもいくつかの流儀があります。一般的にはオフィス環境でよくあるように、天井に敷設するのがAPとしてはもっとも適切です。しかし設置・施工に時間のとれないイベント無線LAN環境ではより手早く展開・撤収できるAPの設置方法を採る必要があります。一方で可能な限り高く設置し障害物(特に人体)の予測不可能性を下げるといった工夫も必要です。ここでは主に持ち運びによる展開がしやすいAP設置の手段について紹介します。

平置き (図4.5)
床や椅子、テーブルの上などにAPをそのまま置きます。強いて言えばこれらの台が必要な程度で治具が不要なのが利点です。一方高さが稼げないという問題や、椅子などの上に置くと退かされる、上に座られる(実際にありました)といった欠点もあります。
AP平置きの例: それぞれ地面および机の上

図4.5: AP平置きの例: それぞれ地面および机の上

譜面台取付 (図4.6)
椅子よりは高さが欲しい場合に譜面台を用いることも可能です。CONBUが行っているイベント無線LAN提供でこれを見たことのある人もいるでしょう(図4.6)。APは譜面台の楽譜を置く部分に設置します。このままだと落ちてしまうため、面ファスナーやネジりっこなどで十字に固定します。譜面台は1つ1000円程度で販売されているもので充分活用でき、高さも120〜150cmとそこそこ稼げる一方でコンパクトに折りたためるという利点があります。特にセミナー、講演のように着席する人が多い環境では有効です。一方で欠点としてはコンパクトさの割に数が集まると重量があること、最大でも150cm程度までしかかさ上げできないという点があります。歩行者や立っている人が多いような場所では不利です。施設によってはレンタルサービスなどをしているため、自前調達や持ち込みが不要な場合があります。
PyCon: AP譜面台設置の例

図4.6: PyCon: AP譜面台設置の例

フロアスタンド取付 (図4.7)
さらに高さを稼ぐ方法としてフロアスタンドを用いる手法もあります。POPやサイネージを掲示するためのスタンドですが、取付方法を工夫すればAPを2m程度の高さに設置するために利用できます。APの固定に当たってはAP付属品の取付金具をタイラップなどで固定するのがオススメです。モノによっては主柱が細いため一定重量以上のAPを設置するのに向いていなかったり、重り(図4.8)が必要な場合もあり設置コストは高い傾向にあります。イベント主催にて同様のものをPOP用に調達している場合、相乗りして追加で用意してもらうことで手配の手間を減らすことができます。
フロアスタンド設置の例 (Maker Faire, Interop Tokyo)

図4.7: フロアスタンド設置の例 (Maker Faire, Interop Tokyo)

フロアスタンドに使える重り

図4.8: フロアスタンドに使える重り

アンテナスタンド取付
APの設置高を稼ぎつつ重量がある場合でも安定性を実現するためにアンテナスタンドを利用することもできます。主にアマチュア無線用やBS/CS用のアンテナのための三脚スタンドとアンテナポールを組み合わせて利用します。APの取付には若干難があり、屋外用APであればこういったポールに取り付けるためのクランプ型金具が付属していますが屋内用APだと創意工夫が必要です。安定性と引き換えに三脚によりかなりの占有面積を取るため設置場所を選ぶという難点もあります。