はじめに

本書副題にてオマージュした「The Devil is in the Deployment」というタイトルは2019年5月にPhillip Hallam-Baker氏によって投稿された、同名のインターネットドラフト[1]をそのネタ元としています。同氏はこのドラフトにて、IETFが今後のプロトコルをデザインしていくにあたり「デプロイされること」を念頭に置いた設計や合意形成プロセスの実施、そして過去の幾多もの失敗を振り返ることの重要性を説いています。まさに題の通り「悪魔はデプロイにあり」、現実的なシナリオに対応できなかったため結局使われなくなった、ねじ曲げられて運用されているプロトコルは枚挙に暇がありません。

「モノ」としてのプロトコルや実装と、それが展開される「場」としての現実世界との間に横たわる溝。それが思わぬ悲劇となるのは何もプロトコルデザインに限ったお話ではありません。本書で扱うイベント無線LANにも悪魔が潜んでいます。Wi-Fi、無線LANのネットワークをデプロイすることは原理的にはそこまで難しいことではありません。みなさんのご自宅にも何らかWi-Fiアクセスポイントが動いており、お手持ちのスマートフォンでテザリングしてお使いになっているかと思います。このように無線LANをデプロイして動かすのは「モノ」としてはそんなに難しくはないのです。

しかしことイベント公衆無線LANのような特殊かつ大規模な「場」となると小さく動いたものをそのままスケールさせればOKというようなわけにはいきません。そこには「場」としての固有の課題が登場してくるのです。

本シリーズではタイトルにもある「イベント環境」という「場」にWi-Fi/無線LANという「モノ」を持ち込むにあたり現れる「Devil」から少しでも遠ざかるための知恵や知見といったものを紹介します。vol.1である本書では特に無線LAN設計、APの配置やケーブリングをトピックとして取り上げます。

あるいはここに書かれていることは本書題の通り「完全自壊マニュアル」とされるものかもしれませんが、同じ轍を踏まないよう他山の石となれば幸いです。